『小さくても勝てます』 さかはらあつし (ダイヤモンド社/Kindle Store)

2018年1月8日月曜日

 世の中にはビジネス書というジャンルがあって、経営であったりマーケティングであったり組織運営であったりの理論を記した書物が沢山あり、ビジネス書としてカテゴリー分けされています。

 一方で経済小説とでもいうべきジャンルもあります、高杉良さんであったり、池井戸潤さんの作品がそれにあたるでしょう。

 いま読んでいる本はその両方を兼ね備えているとおもうのですが、そういう作品は実は少なく稀有なものを目の前にしていることに気がつきました。


 さかはらあつしさんの『小さくても勝てます』がそれで、経営理論などで出てくる学術的な語彙を使いつつ、それを身近な理容店の店舗経営を舞台つかって描いています。そしてこれは完全なフィクションではなく、実際に著者のさかはらさんが西新宿の「りよう室ZANGIRI」の店長に経営の助言をして人気店にした実話をもとに書かれています。経営理論を伝えるためにエンターテイメントに仕立てた作品というとエリヤフ・ゴールドラット氏の『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』が思い浮かびますが小説のストーリーは創作です。実話でありながら一見とっつきにくい経済用語をあてはめて描く、しかも成功実例であるというのは、今までの経済小説とはまた違う新しいジャンルをつくったといっても良いのではないでしょうか。

 私は3年ほど前、さかはらさんから「りよう室ZANGIRI」のお話を直接伺う機会を得ました。ITと経営をテーマにした私的研究会に講演者として来て下さったことがあり、それを聴講したものです。その時さかはらさんは自らが監督をつとめるドキュメンタリー映画のクラウド・ファウンディングを打たれているところで、私は協力したいとおもいそのことを書いています。

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 この時のクラウド・ファウンディングはいったん完結していますが、映画作成は現在も続けられています。このとき以降さかはらさんの Facebook のポストを読むようになりました。映画について、この『小さくても勝てます』について、制作の過程での苦闘ぶりを継続してポストされていて、予備知識無しにさかはらさんの作品に接する方とはまた違う感想を自分は持てているのでしょう。この、途切れず創作の過程をソーシャル・ネットワークを使って流し続けるということ自体、本のマーケティング方法としてお手本になっています。

小さくても勝てます』は経営や経済について勉強をする方、中小企業や店舗の経営をされている方にとって有意義です。作中に出てくるだけでなく、各章末にキーワードの説明のページがあり、テキスト的な役割も果たせるようになっています。それでいて「半沢直樹」シリーズの読者にも読まれうるエンターテイメントになっているのです。

 この書評ブログは ebook を対象としているのでリンク先も ebook 商品に張っています。しかしこの本はいまソフトカバーの単行本の方で「ビジネス・経済」のカテゴリーで10位以内に入っていて、一方で Kindle 版では「人文・思想」など別のカテゴリーに入っています。出来ればより上位のカテゴリーでランキング上位に入ることでさかはらさんの力になればと思い、微力ながら単行本商品へのリンクも張ることとしました。こういう、同じ商品がカテゴリー間で分かれてしまい正確な消費者動向から少し離れてしまう例に行き当たると必ずしも Amazon 売れ筋ランキングが「本」と「Kindleストア」で分かれているのもどうなのかな、総合ランキングがあっても良いのでは……というおもいが湧き上がってきます。

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