莫言さんの作品を読みたくて

2012年10月20日土曜日

 "Reviews" というタイトルに謳っていて読んでないってどういうことなのか? と言われそうですが、ちょっと脱線したお話を書いてみたいとおもいます。2012年ノーベル文学賞を受賞された莫言さんの作品を読みたい! とおもった私のここ数日の顛末について、です。




 莫言さんの受賞に対して冷たい批判が投げかけられたり、村上春樹さんが受賞を逃した、という捉え方が為されたりしているのを受賞発表以降目にしていたのですが、そもそも私は莫言さんの作品をまるで読んでいないためどうこう意見を持つことが出来ませんでした。そもそも近代中国文学というと子供の頃家にあったどこの出版かも覚えていない「世界文学全集」で魯迅の『阿Q正伝』を読んで以来接した記憶がありません。

 莫言さんに実際にインタビューされた経験のある福島香織さんの記事に接して起きている毀誉褒貶の拝啓が見えた気がしました。とともに、作品を読んでみたい気になったものです。折角モチベーションが沸き起こったのですから萎まないうちに読んでおきたいのが人情です。
賞を必要とする人が受賞したノーベル文学賞:日経ビジネスオンライン 賞を必要とする人が受賞したノーベル文学賞:日経ビジネスオンライン


 比較的広い売り場を擁したチェーン展開されている書店を二店舗覗いたのですが、ワゴンの平積みにも外国作品の棚にも莫言作品を見つけることができませんでした。恐らくは店員に尋ねれば片隅にでも置いてあったのを教えてもらえたかもしれません。しかし普通に棚をめぐっていて先に芥川賞を受賞された鹿島田真希さんの『冥土めぐり』は見つけられても莫言作品の平積みを見ることはありませんでした。もともと受賞を予想しておらず、入ってくる冊数も少なかったのですぐに売り切れてしまったのか、最初から書店としてラインナップに加える意思がなかったのかはにわかに判断がつきませんでした。

ネットで中国文学を探してみたら

 かといって読む方の興味が低いわけではありません。普段使っている大田区の図書館のサイトで検索をかけたところ、莫言作品は軒並み貸し出されて予約を入れても返却待ちの列に並ぶこととなっています。

 Amazon の日本語サイトで莫言さんの著者名で検索しても入荷待ち状態になっている作品が並びます。元々在庫が少ないということであったなら出版社も取次も村上春樹さんの受賞一本に絞ってながめているという賭け事を仕事においてしていたこととなります。

 もちろん逆に売れるかどうか分からない本を仕入れて棚に作るのに躊躇した、ということなのかもしれませんね。と言って本は返品がきく訳でもあるのですが。

 Google books でも検索しました。探せば一作品くらい、e-book になっているものがあるのではないかと考えてのことです。

 しかし、どの作品について参照しても "No eBook available" の文字が。

 探しているうちに他の中国近代文学に対象を広げてみるのですが、もっと若い作家の作品でも e-book で提供するというような実験的な試みを見つけることはできませんでした。

 Amazon を例にひいたクリス・アンダーソンさんのロングテールの理論と実際を我々は知っており、先に述べたような在庫云々をネットワーク・サービスは軽々と越えられることを知っています。ただ、実際に長大な視野でそのサービスを組み立て、清濁併せ呑んで実行に移すものが今のところ Amazon ぐらいしかおらず※1、しかも日本は Amazon の kindle を核にしたサービスを受け入れるのに必要以上の壁を設けてしまっているのではないか、と見えます。

 例えばどうでしょう。ノーベル賞文学賞候補にあがる作家といえばその国においては第一線で活躍されている作家であろうとおもいます。ノーベル賞は選定の過程が厳重に管理されていて受賞者以外の名前や評価内容は一定期間秘匿されるのだと聞いたことがありますが、誰が受賞するのかオッズが出ていたりして大体候補者の顔ぶれの想像ぐらいはついているといえます。ならば、候補者の作品で世界にどのような作家がいてどれくらい読まれているのか、どのように影響を与えているのか、示せるような棚を作れるのではないか。ひいては世の中で起こっていることを垣間見ることができるような棚になるのではないか。

 商売として成立することが基本ですが、そのうえで文学作品も写真や、音楽や、絵画イラストのように国境や文化をまたいで新たな文化をつくる可能性をネットワーク・サービスの上では持っているとおもいます。言語の壁を越えることが出来れば、そして先ほど紹介した福島香織さんのような良き理解者がいればよいのです。そのような何かが生まれるタイミングに我々は立っているのだとおもいます。「ノーベル賞候補者の棚」などほんの一例であり、ネットワーク上においてはより柔軟にテーマを設定できます。あとは実際にその作品にすぐにたどり着けるようになっているかどうか、です。難しい話ではなく、先ほどの Amazon や Google books のページから、対価を払うから、すぐに読めるような世界をつくりたいのです。

 結局まだ莫言作品を読むに至らずにいるのですが、できれば待つのではなく、何かを生み出す方の隅っこに関わるにはどうしたら良いのか、と思いつつ書いています。


※1 ごめんなさい、楽天は「長大な視野でサービスを組み立てて、清濁併せ呑んで実行に移して」いるわけではないのではないかとおもってみているのです。