『「超小型」出版:シンプルなツールとシステムを電子出版に』 Craig Mod 著、樋口武志訳

2013年1月26日土曜日

 今まで e-book を紹介するにあたり結構な枚数のイメージを貼り付けることとなっていたのは、操作イメージを紹介して「これなら読んでみたい」と思ってもらえたら……という意図でそうなっているとおもいます。

 ただ、そんな気遣いが必要なく使えるようになっていた時、いつの間にかキャズムを超えて新しいものが出来ているのではないかという気がします。もしかしたらその時に我々の前にあるのは電子書籍だの、e-book だのという名前ではないものかもしれません。
最近クレイグ・モドさんの名前や著作についてよく目にしていたので早速 Amazon.co.jp で e-book を購入しました。読むと、ページ数は多くないながら的確な指摘が並びます。例えば……

  • e-book の操作は煩雑過ぎる。ガイダンスが必要というのは複雑過ぎるのではないか
  • e-book の作り手に「技術には詳しいが出版については素人」と「出版には詳しいがシステムについては素人」のどちらかであり、両方に詳しいメンバーが揃っている場合が少ない
  • e-book の多くが伝統的な本のデザインを引きずっていてダサい …… 『Quick Japan』 太田出版 ( iPhone4 iOS 6.0.1 Newsstand ) で言及しました
  • ページネーションは必須ではないのではないか …… そういえば Paberish のスクロールブックはページングが無い。 『イグノーベルな思考の流儀』 栗原一貴 ( Paberish ) 参照

 ……などなど。これまで e-book reviews Japan でも言及してきたことも含め思い当たることがあります。こういったひとつひとつの問題点をひっくり返していけば面白いものが生まれるような気がしてきます。ただ、現実は既存の「業界」は生き残りを思い、その結果中途半端なサービスもたくさん生まれているのが今の状況なのかもしれません



 私などは e-book をつくる側の人間でもある、という自覚があります。e-book というのは今までの読書とは別の文化を作り得る機会であり、その場に居合わせられていると考えているのです。

 そういった想いを持つものとしては「超小型出版」という狼煙は我が意を得た気持ちになります。ただし、小型だというのはスタート時に狙う市場が小さいというだけであって、ユーザー・インターフェース、ユーザー・エクスペリエンス、デザイン、コンテンツの質がいい加減でいいという訳ではない、ということは肝に銘じなければならないだろうとおもいます。そもそも私自身に関して省みると出版に関する知識はさして豊富ではなく、プログラマーとしての技術はレガシーであり、アイデアを実装するのに甚だ及び腰だというのが現実なので、浮かれ様も無かったりはするのですが。

 それでも「紙とデジタルをシームレスに行き来できる」という読書環境は理想です。書店とデジタル、それぞれにおいては本に出逢うのに理想のカタチがあります。書店においては出会い頭に、デジタルにおいては検索やマイニング。そうして出会った本を速やかに読み始められ、何処にでも持ち出すことが出来る。本好きとしては、ストレスフリーに時と場所を選ばず、紙であろうと読書ができるという理想郷が実現し得るのならば、まだいろいろな試みを続けたいと思います。著作権や著作隣接権といった厄介なものがあるわけですが、そういったものとは正面からはぶつからず、先に仕組みをつくることが理想郷への一歩ではないかという気がしています。

 最後に。個人的にはかつて MINI Cooper 乗りだった私としては、HONDA の N360、いい感じですね。