文化庁が今年2013年の2月から3月にかけて行った電子書籍の配信実験で堂々のダウンロード数1位を獲得したのが酒井潔氏の『エロエロ草紙』だったことは記憶に新しいところかと思います。私もそのニュースを読んだ際に、ダウンロードし損ねた! という後悔を書いたことがありました。
ところが『エロエロ草紙』が Kindle store にあがっていることに気が付きました。気が付いたのは私ではなく、仲俣暁生さんが「買ってしまった」とネット上でポストされているのをふと読んでリンクをクリックしてみると、まさかのアダルトコンテンツ警告。
なんだろうとワクワクしながら「はい」をクリックすると(上の画像では思いっきりクリックしたのがバレバレな恥ずかしい画面となっていますが)『エロエロ草紙』が出てきたのでクスっと笑うと同時に嬉しい驚きを感じ購入しました。\200 です。
配信実験の時にはダウンロードしなかったと書きましたが、国立国会図書館のデジタル化資料参照サービスでは見ていました。ここで公開されているのは画像データで、恐らくマイクロフィルムから取り込んだものだろうとおもいます。
一方 iPhone4 の Kindle でしばらく読んでいてはたと気が付きました。エロティックなイラストたちは画像ですが、文章はリフローされています。リフロー、というのはこの場合「文章を文字データ化し再フォーマットできるようにすること」だと大雑把にとらえて頂ければと思います。はて、これは配信実験の時と同じものなのだろうか?
リフロー版への称賛
結論からいうと、配信実験時の『エロエロ草紙』と Kindle store で買える『エロエロ草紙』は違うということが分かりました。つまり、配信実験は国立国会図書館と同じ画像データから作成されたものを使っていて、Kindle store に出ているのは国立国会図書館に収蔵されているものを原版として e-book として再作成したものです。そして、巻末にガイダンスと旧字体と新字体の対照表、用語集がつけられているのです。素晴らしい。この巻末付録まで是非読んで頂きたいと思います。
あとがきを読みますと、この e-book 作成プロジェクトは今年の1月から文化庁の配信実験とは関係なくスタートしていたとのことです。酒井潔さんについて共時性を発動させるような何かが今動いているのでしょうか。それにしても配信実験に『エロエロ草紙』が入ったところでプロジェクトを止めないで続けられた判断は称賛したいとおもいます。
ちなみに Kindle store 版の作成者(プロジェクトチーム)の名前はほんの1ページに、ごく控えめに出ているだけです。あくまでも酒井潔さんの作品である、という態度の現れでしょうか。それにしても著作権が切れて書籍の現物か画像データしか残っていない作品のリフロー作業はかなり大変なものであると聞いています。旧字体など機種依存文字(コンピュータやOSによって文字コード表現がことなるような、標準化されていない文字のことです)や挿絵・写真、ルビがふんだんに使われていると手間がかかるのです。私は自作で .book 形式にする直前の整形を自分でさせて頂いたことがあるのですが、それですらパワーが必要でした。
酒井潔と澁澤龍彦、ジョルジュ・バタイユ
改めて読んでみて、確かに画像はエロティックだけど、文章はごくごく上品にエロを語っていて、アダルト警告が必要かなぁ……と思うなどしました。でも確かに、自分の子供がこっそり覗くことを考えたら、ちょっと納得。あ、iPhone で黙ってみられたらどうしよう。
あと「モダン落語 圓タク・ガール」の章を読んでいて、ジョルジュ・バタイユの『エドワルダ夫人』を連想しました。実は私は『エドワルダ夫人』は読んでいません。澁澤龍彦さんが『エロスの解剖』という随筆で紹介して知っているに過ぎないのですが、もし『エロエロ草紙』に『エドワルダ夫人』の抄訳がまぎれこんでいてもそんなに違和感はないのではないかという気がしたのです。
調べてみると酒井潔さんが1895年生まれ、ジョルジュ・バタイユ氏が1897年生まれとほぼ同年代と知りました。『エロエロ草紙』が1930年の出版、『マダム・エドワルダ』がピエール・アンジェリックというペンネームでバタイユ氏作であることを秘して限定出版されたのが1941年から1945年にかけてということのようで、強ち荒唐無稽な連想でもないようです。
ちなみに私にこの連想をもたらして下さった澁澤龍彦さんは最も敬愛する作家であり随筆家のひとりですが、酒井潔さんの影響を受けているといえる、性愛に関する文章の名手と言えます。違和感が無いのも当然でしょうか。
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