『架空の歴史ノート-1 帝国史 分裂大戦編』 設楽陸 (Kindle Store)

2013年6月9日日曜日

 これは自分で見つけたかったな……既に話題になっているので今更な感じではあります。『架空の歴史ノート 帝国史』。

映画の『STAR WARS』であったりノベルの『アルスラーン戦記』なんぞに触発された学生の書いたプロットノートが意外と凄いので e-book にしてしまったのか……と思ったのですが、そういう思い込みで読むと面白さが限定されるのではないか、という気がしました。

 作者の設楽陸さんが学生時代、まったく授業に身が入らず、その暇を埋めるためにノートに架空の帝国史を夢中で書いていたように、Amazon.co.jp の作品紹介の欄には書かれています。帝国史をテーマに選んだところにはもしかしたら上記のうがちのような他の作品からの影響があったかもしれません。それにしてもこれだけの歴史書を脳内から創り出せる情熱というのは矮小にとらえて評価してしまっていはいけないのではないか、という気がします。

 設楽陸さんは画家。帝国史ノートに書かれた挿絵は彩色まで施されていて授業中の暇潰しの域はとっくに超えているようです。

上記のような地図、歴史書の本文に当たる記述、人物設定などが主体なのかとおもって最初読んでいたのですが、実は絵が主体であって、文章や人物設定は絵を成り立たせるために従属しているのかもしれない、とも思えるようになりました。天童荒太さんでしたか、人物設定がかなり詳細にノートに書き込んでから原稿を書くというような、かなり綿密な作家さんもおられるようです。もちろん、設楽さんが学生だった時にそんなことを明確に取り決めて書いていたとかいうわけではなく、本能的にそうするのが面白かったからなのではないかという方が自然なような気がします。

 このノート、タイトルに「1」とあるので続きがあるのだろうか……と思って調べると、設楽さんのブログには「架空の歴史ノート7冊目」という記載がありますし、一度とまっていたのが現在また書き続けているようにも読めます。



 このノートのスキャンをしたのは設楽さん本人ではないようで、もしかしたら帝国史の出版を担当している株式会社レベルライフがスキャンも担当されたのかもしれません。レベルライフの業務にはタレントや音楽家のマネジメントもあるようなので、この帝国史を映画にしてみようとかそういうプロジェクトが立ち上がることがあるのかもしれません。

 ただ映画化だのが目的だ、というのではなく、画家としての設楽陸の作品体系の一部としてノートたちがあり、設楽陸の作品群としてノートがまとめられて我々が見ることができる、という方が何か、わくわくします。

「ノートに書いたものが商品として売れてお金になるなら凄いじゃん」という評し方もできるのですが、「ノートに書く」ということが誰にでもできることではないことは充分に承知しておかなければならない気がします。e-book という商品のカタチによって出版のチャンスが増えたことは間違いないのですが、読んでもらうだけのものを生み出す才能や努力、それを校閲し読み易い商品にして世に出す能力は必要です。実際、『架空の歴史ノート』も出版はきちんと業務としてできる会社が担当しており、プロジェクトチームを編成して生み出されたものとなっています。

 そういえば「読み易い商品」といえば、『架空の歴史ノート』はノートををスキャンして e-book をつくってあるので読み易いも読み難いもないですが、栞が挟めないのはそういうものなのでしょうか。過去に読んだスキャンしてつくられた e-book、例えば東洋文庫なんかでも栞が挟めましたが……