『(きのこファンのための) はじめての菌類学 (1)』 中島淳志 ( Kindle store )

2013年9月20日金曜日

 自分が中学生から高校生であった時期に茸に集中的に興味を持っていたことがありました。そうなった経緯は今となっては覚えていないのですが調べるだけでなく標本採集もしていました。残念なことにその初期に採集してしまったキノコがニオイワチチタケという茸だったようでした。


【参考】ニオイワチチタケを紹介したページ

 このニオイワチチタケ、実は乾燥させると結構強いカレー粉の匂いを放つのです。その匂いについて対処しようがなかった事と、採集してきた茸がゴキブリの餌にならないように管理するのがまた難しかったことからじきに標本採集はやめてしまいました。ただ、その当時に得た知識は今も時々記憶の底から顔を出します。

 そういう人間がみたらすぐ買ってしまう本がありました。『(きのこファンのための)はじめての菌類学 (1)』、中島淳志著。
 いち茸ファンとして、勉強や移動の合間あいまで楽しく読ませてもらっており、既に同書の (2) と同じ中島さん著の『世界の不思議きのこ(上)』も購入してしまいました。続けて読んでいます。

 本書の中にも出てくるのですが、きのこは雨上がりに出てくるイメージがあります。

 私が茸に興味を持った学生時代、梅雨の晴れ間に近所の林に足を踏み入れると落ち葉を押しのけて茸がにょきにょきと生え出している、それを見つけるのを面白がっていました。今のようにスマートフォンで手軽に写真を撮れる環境があの頃あれば、膨大な量の写真を撮っていたのではないでしょうか。

 関東圏であっても、ちょっと緑が残っていれば茸に出会えます。最近公園を通ってあるくようなとき、雨上がりであれば茸が生え出していないだろうかと気にして見るようになってしまいました。


パッケージの意味

 茸好きだ、みたいなことを冒頭書きましたがこれを読むまで「菌類とは植物でも動物でもない、新しいカテゴリーである」「菌類は植物と動物ならば、動物の方に近い」みたいなことを知らないわけです。前書きによるとこの著作は筑波大学菅平高原実験センター主催のオンライン講座の教材をもとに加筆修正したものだということで、もともとウェブコンテンツに近しいものとして作られたといえるようです。もしかしたらウェブで出逢う可能性があったのかもしれませんが、これだけのコンテンツにはいくばくかお支払いできる形態の方が良いのではないかとおもいます。これは小規模ながら個性的な作品に出逢うたびにおもう事です。

 こう書いてしまうと e-book というのはマネタイズだけがウェブとの境界線なのか……という毎度のテーマに行き着きます。有料のウェブサービスと e-book は本質的には同じものなのか。

 同じものだとおもって進んで良いのだろうな、と私はおもいます。 

 先に PMP の資格継続のための PDU 取得の題材が Kindle Store にあがっているのを紹介しましたが、かなり質は低いものでした。これはこれで、先取りした試みとしては評価すべきだと私はおもういます。もっと質の良い、同じような目的の e-book がパッケージとして出てきた時には競争にさらされるようになるでしょう。

 また現在 e-book としてパッケージ化されているけれど料金フリーだ、という商品もあります。著作権切れの作品の焼き直し、というようなものだけでなく、きちんと書き手と編集者と校閲者、デザイナーが関わっているけどフリーだというようなものもあります。これについても、先にファンになってもらっていずれ続けていくために有償化をお願いするという進め方が考えられます。

 逆に現在の草創期というべき状況では、Kindle Store に有償であがっている作品でも自家出版的な商品だとかならずしも質の高い編集やデザインを経ていないものが混じっています。つまりウェブの世界とさして変わらない状況が e-book でも起きつつあって、それを良しとするのか、それとも e-book というパッケージを取り巻く世界で新しい文化を作れるか、まだ可能性は我々の掌のなかにあるのではないかと考えたりします。

 e-book の未来はさておき、まだのこっている『はじめての菌類学 (2)』 のページを繰ろうとおもいます。福島第一原子力発電所の事故以来、プロの手を経ていない野のきのこを摘んで食べる勇気はなく、標本採集を再開するつもりもないのですが気候がよくなってきて野山を歩く機会があれば、是非道端で立ち止まってきのこを眺めてみたいものです。