『あなたの隣に 発達障害と向き合う』 下野新聞社 ( TOCHIGI BOOKSHELF 栃本[トチポン] )

2013年11月17日日曜日

 以前新聞のアプリをあれこれ見比べたことがありました。その時は所謂「全国紙」のタブレットやスマートフォンへの対応状況をみていました。あえていうとその際にチェックした「地方紙」というと東京新聞ぐらいだったでしょうか。

 実のところ私は「全国紙」の取材方針、編集方針については斜に構えてみていることろがあります。各紙独自性があるようにみえてその実肝心なところは権力のあるところ、スポンサーの方を向いて紙面をつくっているのではないか……と感じているわけです。であれば、ある程度大きな権力やスポンサーの呪縛から距離がある(らしくみえる)、それでいて真摯な取材をしている地方紙の記事を読んでいる方が役に立ちそうだとおもうことがあります。といって大規模な組織でつくられている新聞の質というものを軽視するべきではないとおもいながらも、です。

 下野新聞のサービスに行き着いたのは紙面のサービスへのアプローチではなく、先に紹介した「香川ebooks」のような地域に根ざしたライブラリー・サービスは無いかと探してのことでした。
ラインナップをみていると、下野新聞が出されている刊行物が購入できるサービスなのですが、それに限らず栃木の地域情報、観光情報、フリーペーパーなどの冊子を e-book 化したものもダウンロードできるようになっています。下野新聞社が「香川ebooks」のような地域 e-book ポータルの運営を買って出ているということになるでしょうか。

真摯な取材の成果


 その中で発達障害をテーマにした、硬い内容の本を選んで読みました。『あなたの隣に 発達障害と向き合う』。

 下野新聞に連載された取材記事をまとめたものですが、「2012年科学ジャーナリスト大賞受賞」とあります。日本科学技術ジャーナリスト会議という団体がテーマにおいて優れた報道を表彰するもので、2012年はこの本を産むことになった下野新聞社の発達障害に関する取材と NHK の ETV 特集『原発事故への道程』が大賞に選ばれています。本年度の科学ジャーナリスト賞のひとつに NHK スペシャルのダイオウイカの映像が選ばれたと聞いたら、どこかで目にされたと思い出される方もあるかもしれません。

 2011年のこの賞では原爆に関する NHK の番組が大賞に選ばれ、2012年及び13年でも原子力発電所の事故についての報道が受賞しており、われわれがこの問題から目を離してはいないことが表されています。そんな中で発達障害についての報道が高い評価を勝ち得たというのは目を惹きました。また、最近こそアスペルガー症候群が「アスペ」という略称で普通に語られるようになりましたがその言葉についてちゃんと分かっているとはいえない気がします。仕事をしていると(これは仕事の上手い下手ではなく、相手の傾向なのではないのか)という感想を持つことがあり、真摯な取材から発達障害についての知識が得られるなら753円という値段は出しても良いと思ったのです。

 栃木においては優れた報道があって発達障害と診断されたひとの抱える困難や普通に生活できるよう支える組織活動があることが分かります。地域差はあるのでしょうが、おそらく他の都道府県でも同様の取り組みはあるのでしょう。私が知らないだけで発達障害がある方の支援に携わる人達のネットワークがあってこの本に書かれているような情報も既に共有されているのかもしれません。ただ、教育現場の人員や理解の不足は今もあるのだろうなと推測しています。その観点から、学校の現場で発達障害をもった生徒のために教師への助言を専任で行うコーディネーターの事例などは広く知られて良いのではないでしょうか。

 この本には新聞の記事に対する読者のコメントもあわせて掲載されています。必ずしも発達障害をもつひとに対して肯定的な意見だけではないようです。発達障害があってかつ攻撃性のある子供に怪我をさせられた、というはなしであったり、結局怠けているだけではないのかとおもう、という意見であったり。そういう意見も当然出てきてよくて、一方的に語られるのではなくてより議論が深まるためのステップにおいて意見が出てきているということにこの本の意義はあるのではないかとおもいます。

 この本は e-book でのみ出ています。学校や公共の図書館などに置くことを考えれば紙の書籍としても追って刊行されても良いのではないかとおもいました。通常の本であったものが e-book として追加で出されたり、紙と e-book と同時に刊行される例が今のところ一般的なような気がしますが今後逆のパターンも多く出てきても良いのではないでしょうか。

e-book 出店サービス wook の使い勝手


 ところで「栃本」のサービスは「wook(ウック)」というサービスのうえに構築されています。キングジムの運営している、法人でも個人でも e-book のウェブショップが開設できるサービスです。Kindle Store に限らず、国内のサービスでも同じように販売ができるサービスは出ていますが、キングジムが運営している、というのが中立の雰囲気がして良いように感じますがどうでしょうか。wook では青空文庫のサイトも作られていたりします。

 キングジムといえば事務文具のメーカーであることがまず浮かびますが、私などは「ポメラ」を思い出します。テキスト入力に特化したガジェットで、持っていませんがもしこれが iPhone より先に世に出ていたとしたら買ってしまっていたのではないかとおもってみています。20年前位に、こんなものがあったら移動中にも文章をかけるなとおもっていたものです。

 wook は iPad 及び iPhone アプリもあります。ところが ePub でダウンロードできる『あなたの隣に 発達障害と向き合う』 はこのアプリでは開けませんでした。今回は iPad の iBooks で読んでいました。他を試すとフリーペーパーなどは wook アプリで開けました。wook のデータ登録方法の説明ページを見ると、PDF を登録した場合は wook アプリで開く形式となり、テキスト登録などで ePub を作成することもできる、となっているようです。

 iPad でwook アプリで開く場合はこんな感じになります。まずブラウザで本を選んだとします。
「電子書籍を開く」をタップすると、その本の形式に従って e-book を開くアプリを提示してくれます。
「Aspo」という生活情報誌は PDF 登録のようで wook を提示されます。このまま「本を開く(アプリを起動)」をタップすれば wook が開きます。インストールされていなければ App Store でダウンロードしようとします。アプリは無料。

当初同じアプリで見れた方が分かりやすいような気もしましたが、他のアプリで標準的にサポートされているならば無理しない、という割り切りもありかと納得しました。

ところで wook というサービス名ですが、同じ名前の、e-book も含めた書籍販売サービスがポルトガルにあるようです。特にキングジムのサービスとのつながりは無いようで……