『棕櫚 SHURO』創刊号 マルカフェ文藝部( Kindle Store )

2013年10月27日日曜日

 東急池上線に御嶽山という駅があります。駅のそばに木曽御嶽で修行した修験道の行者が起源に関わっているらしい御嶽神社があるのが駅名の由来で、我が家は何故か縁あって家族で御参りに行くことがあります。正月明けにお飾りをお焚き上げに持っていくのです。この神社でお焚き上げをされるのを知ったのは偶然で、何かわけあってこの居宅から少し離れたお宮さんに参るようになったのだろうかと思ったりします。

 この神社の裏辺りにマルカフェという良さげなカフェがあります。といって私はまだ訪れたことはありません。ただ、同じ大田区にあるのだし一度行ってみたいものだと思っているだけ、です。そのマルカフェから雑誌が出ているというのを知り、読んでみました。
 現地、つまり、マルカフェに行ったことがないものが雰囲気を知らずに手に取ったわけです。どのような経緯で「文藝部」が出来たのかもよく存じ上げないわけですが、巻末の編集長津川智浩氏の記によれば「800」というネットプリント同人誌で書き手が集ったということに触れられていました。ネットプリント同人誌?

 コンビニエンスストアのセブンイレブンの複合機でネットプリントサービスを使うことができます。何年か前にプリンターを撤去した我が家でもプリンターの代わりとしてよく使います。自分で登録した文書を自分で印刷する……という使い方をしているわけですが、プリントする時に使い暗証番号を公開する、というかたちで作品を広めるという使い方もできます。私が記憶している限りでは、東日本大震災の直後に節電を呼びかけるポスターを複数のクリエイターが作成し利用者に貼り出してもらう、というやりかたが取られていたかとおもいます。購入者はプリント料金だけで作品を読んだり見たりすることができるわけです。「800」も同じように同人コミュニティ参加者に暗証番号を渡して各自プリントしてもらうというやり方をとられているようです。オンデマンド出版のライトな形ともいえるかもしれません。

 現在はもうちょっと手をかければ e-book として世に出すこともできます。紙なのか e-book なのか、形態を問わないならば「ネットプリント誌」が e-book の形態を選択肢に加えるのは自然な流れかもしれません。

 収録されている個々の作品については細かく紹介していきませんが、幻想的な作風がいくつか集まっていて、興味をもって読みました。もともとコミュニティがあって文芸誌が出来たことが現れているのかもしれません。細かいことをいえば、製本のハードルが下がったのは良いことですが、Kindle ではまだ数字や記号が縦書に対応しきれていないのが若干気にかかりました。これだけ力を入れて作られているのだから、数字は漢数字で、とかちょっと工夫すると更に良くなる余地があります。


サロンとしてのカフェ

 読みながら思い出したのが、ことしの正月明けに大阪でたまたま入ったカフェで出会った写真集のことでした。カフェは本町にある Cafe OLA という店で、店内に置いてあったのをホットコーヒーを頂きながらページをめくってみたのですが、写真愛好家が残した昭和十年の写真をまとめたもので、そのカフェが出版に関わっているようでした。以下のリンクは後日見つけた、その写真集についてのレビュー。

「昭和十年代の時空」 OLA出版部刊 - 乗光秀明(自然堂)通信(福祉につける薬はないか?) - Yahoo!ブログ 「昭和十年代の時空」 OLA出版部刊 - 乗光秀明(自然堂)通信(福祉につける薬はないか?) - Yahoo!ブログ

 これもどういう経緯でつくられたのか興味を持ったものでした。もしかしたらカフェがコミュニティの場を提供するようなことが起きて、写真集が生まれたのかもしれないと推測したりしました。

 小説にしろ、漫画にしろ、イラストにしろ、作りてのどうにも抑えられない創作欲から生れて回りを巻き込んでいくような場合も多いでしょうが、場を得たことできっかけを得て生まれてくるような形もあるのだろうとおもいます。実際、私がいま在住している大田区の馬込という辺りでは大正から昭和にかけて作家が多く住み、作家たちのコミュニティが出来たことで生まれた、というような経歴をもつ作品もあります。例えば尾崎士郎と宇野千代の自宅などはサロンの役割を果たしていたのではないかとおもいます。

 当然客が集うお店がサロンの役割を果たす場合もあるわけで、ギャラリーやショップとなる場合もあれば、編集会議の場となる場合もあるのでしょう。

 サロンやコミュニティとしてのカフェにとって、e-book という選択肢が増えたことは多くの潜在的な作家を刺激していくでしょうし、作品を生み出すきっかけを与えるものです。個人ではなく複数のひとが集う場として機能するところに可能性を感じます。



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