小規模出版ツールとしての Pressbooks と Vayager romancer

2014年2月3日月曜日

『マニフェスト 本の未来』を読んだ時、原著は pressbooks.com というサイトで読むことが可能であるということを知り、当サービスのアカウントを取っていました。ただ、どう使うかを考えないまま「寝かせて」ありました。それを先日改めてログインし、ある自分で書いた文章を流し込み、公開モードに変更しました。

『息長川ノート』と題した作品です。

「マチともの語り」という、ブログを利用した出版を志したサイトに場所をお借りして書いたもので『猫間川をさがせ』に続いて書いたものでした。ただこの文章はいわゆる e-book にしないままになっています。万葉集にその名が遺っている「息長川(おきなががわ)」がどこにあったのか、という論争に嘴を突っ込むように綴ったもので、既出の説に対して忌憚のない意見を書き綴ったこともあり自分の意見を変えるつもりはないながらもできるだけ見なおして世に出すのが誠意だろうとおもったことと、そう考えると実際に取材に行きたい場所が何箇所もあり、納得できるようなところに持っていく時間がつくれていなかったことによるものでした。

「マチともの語り」は次の形を求めてブログ形式のサイトはいったん止まったということがあり手元にあった原稿を pressbooks.com と、もう一箇所新しいサービス、いずれもセルフ・パブリッシングというかマイクロ・パブリッシングというべきふたつのサービスで公開し直すこととしました。

pressbooks での『息長川ノート』

そもそも pressbooks.com は日本語が扱えるのか確かめずに放置していました。実際はブックを登録し原稿のテキストを流し込んでみると特に問題なく作成できました。呆気に取られるくらい。

息長川ノート | Simple Book Production


 海外に旅行に行った時にレンタルした PC からウェブメールを送るだけのことが出来なかったとかインターネットが世界をつないでいるとは限らないのかしらというような個人的な体験が邪魔をしていたようです。ローミング・サービスを使えばスマートフォンを持ち出せ、文字コードも共通化され Twitter にしろ Facebook にしろあらゆる国の文字がタイムラインに流れてくるのを見るのも当たり前になっているのを自分の常識にできていませんでした。
pressbooks にはいく通りかのテンプレートが用意されていますが勿論のことながら日本語向けに縦書き表示するようなテンプレートはありません。まだ未完成版だとしているものですから細かいところまで気にする必要はないのかもしれませんが。

BinB Romancer での『息長川ノート』

 さて presbooks を改めて試すきっかけとなったのは Voyager 社の自己出版サービス "BinB Romancer" のβ版のログインアカウントを発行していただくことが出来たのがきっかけでした。同じような思想を持ったサービスではないかとおもったからです。pressbooks が紹介されている『マニフェスト 本の未来』の日本語訳書は Voyager から出版されています。

 Romancer の管理画面をみてすぐに pressbooks との違いに気が付きました。pressbooks がブログと同様に一章ごとのエントリーが可能なインターフェースを取っているのに対し Romancer はひとつの作品をテキスト、MicrosoftWORD 2007 以降の拡張子 docx 形式ファイル、pdf、epub のいずれかの形式にしたものを入力として ebook を作成させるインターフェースとなっています。「マチともの語り」もブログ形式を取っていたので今までと違うことにとまどいました。 

 まずは pressbooks に作成した作品をデータに出力するサービスを備えているのでこれを利用して Romancer の入力データを作ろうと試みました。
 上記ウェブの管理画面で ”Export Your Book” ボタンをクリックすると三種類のファイルに作品を変換してくれます。
出力された3ファイルを開いてみたところ epub は問題なく横書きの日本語で ebook になっていました。ただ Romancer に流し込んでできた ebook の参照 URL を開いても何故か処理中状態が続いて表示されない…… PDF はそもそも文字化けを起こして使えませんでした。

 次に pressbooks にエントリーしたテキストファイルをつなげてひとつのファイルにして Romancer に入力しようとしたのですが変換エラーが出ました。「失敗   cannot upload file」とだけ表示されるので駄目な原因がよく分からず、早々にあきらめてしまいました※。

 最後にLibreOffice で .docx 形式に作り変えました。更にそのファイルを PDF に出力したものも準備。再度ためしてやっと成功しました。

  アップロードをかける管理画面はこのような感じ。アップロードすると「変換状態」が変化していきます。
「変換成功」に変わるまで待ちます。成功すれば「BinB URL」に作成された ebook の参照URLが表示されます。
息長川ノート | BinB Romancer …….docx 形式ファイルから作成版



はい、縦書きの ebook ができました。

 ただざっとチェックすると .docx に挿入していた画像は挿入されていないことに気が付きました。文中で森幸安という江戸期の地図公証家の思想を紹介する際に図が不可欠なのですが意味が通らなくなっています。

 Voyager 社のサポート問い合わせたところ本来は画像もちゃんと表示されるとの回答がもらえました。また、章立てをきちんとすれば目次化もしてくれるようなのですがこれもまだ出来ていないので、Microsoft でなくオープンソフトである LibreOffice を使っていることが何か悪さをしているのかもしれません。現在もまだ .docx ファイルの再作成する作業が続いています。


 一方 PDF は画像データ的に ebook 化されるようなので画像も表示されます。ただこれだとそもそも PDF で良いのではないかということになります。
  あと、これは Microsoft WORD を使っていて誰しも歯痒い思いをしたことがあるのではないかとおもうのですが、途中で書式が勝手に変わってしまったりします。例えば下のスナップショット。これは Romancer に流し込んだ時に1行が24文字になるようだと分かったあと、引用部分の段下げを手で行ってみたところ改行を入れるたびに行間隔が広くなってしまったのをそのままにしていたものです。書式設定し直すとか、そもそも段下げも書式設定で行えば良いのでしょうが。
一方で .docx から流し込んだものは当然ながら行間隔などに差は発生しません。

 そもそも作品自体が未完成なので今後問い合わせながら確かめていきます。現時点で分かったことは、個人で簡単に縦書き日本語表示の ebook が公開でき、かつその作品の epub ファイルを取得できるサービスが出来たということです。ある程度の技術がオーサリング──原稿を組み立ててソフトウェア、つまり ebook をつくることです──に必要だと少し前には感じていたのにウェブサービス化の試みが始まってしまいました。


小規模出版は加速するのだろうか

技術やサービスは日に日に進歩しているわけですが、これによって ebook はその可能性を広げるのでしょうか?

 私としてはブログと特に変わらないもののようにも思えます。作る「本」の形式はそれらしくなってきていますが epub であったり、縦書きであったりする「程度」のことに果たして意味はあるのでしょうか。

 意味がないわけではない。サービスの価値としては必要な要素のひとつではあるけれども、むしろ重要なのは執筆者と編集者、デザイナー、校閲校正者などのチームを小規模でも成立させる機能なのではないかとおもいます。

 BinB Romancer は .docx 形式のファイルを入力とするのが良いようなのですが、.docx でファイルをつくりあげようとすると Romancer とは別の場所、たとえば Google Drive などでチームが作り上げたファイルを流しこむようなやりかたが考えられます。でも他のファイル共有サービスにおいしいところを渡していてサービスの意味はあるのか?

 そう考えると presbooks はブログと同じような目新しくないインターフェースをとっていますがチームで作品を作っていくのに適した形を選択しているといえるのではないでしょうか。一度仮稿として公開したものにコメントが付され、それを決定稿化するというようなやり方が小規模出版に適しているとすれば、です。

 Romancer にも元ファイルを共同で管理できるような機能、あるいは一度アップロードしてしまった原稿に手を加えたりコメントを付せたりする機能がほしいと思った次第です。

「そんな使い方は想定していないんだよ」と言われてしまうとそれまでなのですが……

 またチーム作業を考えた時、それはインターネットやウェブではなく、アプリやガジェットで囲われたネットワークで行われるようになるかもしれず、サービスがあまり機能を揃えてかんばるべきではないのかもしれませんが、そのうがちはちょっと先を行き過ぎているでしょうか。



※注:テキストでアップロードに失敗したこともボイジャー社のサポートに問い合わせしています。アップロードしてからの処理におけるエラーではなく本当にアップロードできないというエラーのようなので、ファイル名やディレクトリ名に特殊文字を使っているなどの問題があるかもしれない、という回答を得ています。これについても時間があれば検証してみようとはおもいます。