2015年上半期の芥川賞と直木賞が発表され、芥川賞に芸人である又吉直樹さんの『火花』が選ばれ話題になっています。本屋にはすでに売り切れで並んでいないようで商売的には良い結果となっているのでしょう。話題作りが過ぎるのではないか……という意見もあるようですが新人賞として始められた芥川賞としては必ずしも間違った受賞ではないのかもしれないと内心感じています。ちなみに今回自分としては東山彰良さんが『流』で直木賞を受賞されたのが一番「身近な」事件でした。私がきちんと書くことを始めたのは「マチともの語り」という文芸サイトに於いてなのですが東山さんはこのサイトがスタートした時に一編寄稿されており一方的な親近感を持っているのです。この時寄稿された『love bites』という作品は現在はどこにも再録されておらず読めないのではないかという気がします。東山さんは2009年にも『路傍』で大藪春彦賞を受賞されており積み重ねておられることに尊敬を覚えます。
さて今回の芥川賞の発表を受けてレビューするのはどの受賞作でも候補作でもありません。
佐藤泰志さんは芥川賞の候補に五度選ばれたひとです。しかし受賞されることなく1990年に亡くなっています。その佐藤さんについて知ったのは Facebook の投稿でした。
リンク先の文章でも分かるように池田さんは佐藤さんと同郷でもあり、そこから来る共感から出たポストです。私はこの、中上健次や村上春樹と同じ年代でありながら努力と実力とを充分には評価されないまま世を去った作家についてこのポストでもって知りました。さらに池田さんは佐藤さんの作品が ebook で読めるようになっていることもコメントで教えて下さいました。実はちょっとアマゾンを覗いてみたところ和書でしか出てこなかったためどうしようかと内心思っていたのですが、楽天ブックスや紀伊国屋Webでは和書だけでなく ebook も買えることに気がつかせてもらいました。書店に行く手間も配送を待つ時間もなく読み始められるということがより普通になってきていることを改めて感じます。ちなみに比べると楽天ブックスが少しだけ安かったので今回は楽天ブックスで購入し iPhone5 で kobo のアプリを使って読むこととなりました。最初に読んだのは長編小説『ここのみにて光輝く』、続いて短編の『鳩』、『北炭市叙景』を。
私はここ数年、佐藤さんの作品が相次いで映画の題材となっていることを知ってから読み始めています。『ここのみにて光輝く』は昨年2014年に呉美保監督、綾野剛主演で公開、同じ地方都市を舞台にしたオムニバスである『海炭市叙景』は2010年に熊切和嘉監督で谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮といったいい役者の出演で。来年には『オーバー・フェンス』が山下敦弘監督による発表される予定といいます。そういう「本当は凄い作家であったのが再評価されている」という色眼鏡を最初にかけて読み始めるというのはどうなんだろうと自分に対して少し思いましたがおそらくそんなことは五年十年経てばどうでもよくなることなのだろうと思い直しました。今佐藤泰志さんの作品にたどり着けること。しかも思い立ってすぐに読み始められること。それがのちに強い意味を持つことを何年かのちにふと感じる瞬間がありそうです。中上健次さんが自分の出自や故郷の風俗に依りつつ普遍的な作品を書いたとのはまた違うやり方で、自分の育ったまちの生きてきた時代の風景を描いていて、結果として佐藤泰志は記憶に残る作家と評価されていくのではないかと。
又吉直樹さんの『火花』は和書としては144万部の売り上げ、ebook では7万5千ダウンロードとの記事が東洋経済オンラインには掲載されていました(→ 「火花」が電子書籍でもバカ売れする意味 | オリジナル | 東洋経済オンライン)。単純に比較すると ebook の少なさに目が行きますがこの7万部は古本屋に持って行かれることもなく購入者のもとにあり続けます。購入先がサービスを提供しつづける限りにおいては。
ebook がデータというよくわからないものでありながら作家と読み手とにそういう幸福な関係を本に関して築き得るということが徐々により多くのひとに実感されてくるきっかけになってほしいものです。映画をきっかけに佐藤泰志さんの本にまず ebook でたどり着き、気に入ったので本棚にも並べる……というようなことが起きても良いはずですし、そういう気に入られ方をする本を佐藤さんは書かれたとおもうのです。
さて今回の芥川賞の発表を受けてレビューするのはどの受賞作でも候補作でもありません。
佐藤泰志さんは芥川賞の候補に五度選ばれたひとです。しかし受賞されることなく1990年に亡くなっています。その佐藤さんについて知ったのは Facebook の投稿でした。
ピース又吉の芥川受賞、辻仁成が受賞した時を思い出した。また5回候補になっても受賞できずに自死した佐藤泰志の慟哭が聴こえてくるよう。今年の元旦にこんな原稿書きました。作家 佐藤泰志の光と影が示唆するもの
Posted by 池田 敬二 on Thursday, July 16, 2015
リンク先の文章でも分かるように池田さんは佐藤さんと同郷でもあり、そこから来る共感から出たポストです。私はこの、中上健次や村上春樹と同じ年代でありながら努力と実力とを充分には評価されないまま世を去った作家についてこのポストでもって知りました。さらに池田さんは佐藤さんの作品が ebook で読めるようになっていることもコメントで教えて下さいました。実はちょっとアマゾンを覗いてみたところ和書でしか出てこなかったためどうしようかと内心思っていたのですが、楽天ブックスや紀伊国屋Webでは和書だけでなく ebook も買えることに気がつかせてもらいました。書店に行く手間も配送を待つ時間もなく読み始められるということがより普通になってきていることを改めて感じます。ちなみに比べると楽天ブックスが少しだけ安かったので今回は楽天ブックスで購入し iPhone5 で kobo のアプリを使って読むこととなりました。最初に読んだのは長編小説『ここのみにて光輝く』、続いて短編の『鳩』、『北炭市叙景』を。
私はここ数年、佐藤さんの作品が相次いで映画の題材となっていることを知ってから読み始めています。『ここのみにて光輝く』は昨年2014年に呉美保監督、綾野剛主演で公開、同じ地方都市を舞台にしたオムニバスである『海炭市叙景』は2010年に熊切和嘉監督で谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮といったいい役者の出演で。来年には『オーバー・フェンス』が山下敦弘監督による発表される予定といいます。そういう「本当は凄い作家であったのが再評価されている」という色眼鏡を最初にかけて読み始めるというのはどうなんだろうと自分に対して少し思いましたがおそらくそんなことは五年十年経てばどうでもよくなることなのだろうと思い直しました。今佐藤泰志さんの作品にたどり着けること。しかも思い立ってすぐに読み始められること。それがのちに強い意味を持つことを何年かのちにふと感じる瞬間がありそうです。中上健次さんが自分の出自や故郷の風俗に依りつつ普遍的な作品を書いたとのはまた違うやり方で、自分の育ったまちの生きてきた時代の風景を描いていて、結果として佐藤泰志は記憶に残る作家と評価されていくのではないかと。
又吉直樹さんの『火花』は和書としては144万部の売り上げ、ebook では7万5千ダウンロードとの記事が東洋経済オンラインには掲載されていました(→ 「火花」が電子書籍でもバカ売れする意味 | オリジナル | 東洋経済オンライン)。単純に比較すると ebook の少なさに目が行きますがこの7万部は古本屋に持って行かれることもなく購入者のもとにあり続けます。購入先がサービスを提供しつづける限りにおいては。
ebook がデータというよくわからないものでありながら作家と読み手とにそういう幸福な関係を本に関して築き得るということが徐々により多くのひとに実感されてくるきっかけになってほしいものです。映画をきっかけに佐藤泰志さんの本にまず ebook でたどり着き、気に入ったので本棚にも並べる……というようなことが起きても良いはずですし、そういう気に入られ方をする本を佐藤さんは書かれたとおもうのです。
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